関西支部技術賞

平成22年度 土木学会関西支部技術賞

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技術賞

【対象業績】
大規模開削による大断面4連アーチカルバートの施工
4連アーチカルバート完成写真(起点側より)

4連アーチカルバート完成写真(起点側より)

【受賞者】
西日本高速道路株式会社関西支社枚方工事事務所
(株)大林組・青木あすなろ建設(株)・(株)松村組特定建設工事共同企業体
鹿島建設(株)・(株)熊谷組・みらい建設工業(株)特定建設工事共同企業体
【受賞内容】

 第二京阪道路は、京都と大阪を結ぶ延長約28.3kmの道路で、6車線の自動車専用道路と2~4車線の一般道路からなる一般国道1号のバイパスである。本道路の打上工事および国守工事区間では、寝屋川市域の閑静な住宅街が広がる丘陵地において、最大掘削幅約62m、最大掘削深さ約28mの大規模開削を行い、わが国でも例を見ない大断面の4連アーチカルバートを構築した。本構造物では、上床版と底版にアーチ形状を採用した結果、ボックスカルバート形状と比べて、部材厚が約60%程度に抑えられ、コスト削減を図ることができた。
 本工事は、住宅密集地での大規模開削工事であったため、周辺環境への配慮が必須であるとともに、現場条件等から工期短縮が命題であった。また、アーチルーフと側壁・隔壁の接合部分が非常に大きな断面であるため、コンクリート硬化時の水和熱に起因する有害な温度ひび割れの発生が懸念された。
 これらの課題解決のため、工事エリア周辺の騒音・振動測定を行うとともに、アーチカルバートの各部材の製造にあたっては、工場生産方式の採用により工期短縮を図り、さらにはパイプクーリングによる温度ひび割れ対策等を行い、工事を完成させた。
 本業績は、合理的な4連アーチカルバートの設計・施工方法を確立したこと、様々な取組みにもとづく工程短縮の実現により第二京阪道路の全線供用に貢献したことなどが評価された。


【対象業績】
耐震性能グレードを考慮したハーバーハイウェイ長大橋部の耐震補強事業
耐震補強工事が完成した神戸大橋

耐震補強工事が完成した神戸大橋

【受賞者】
神戸市みなと総局
大日本コンサルタント株式会社大阪支社
株式会社建設技術研究所大阪本社
ショーボンド建設株式会社近畿圏支社
【受賞内容】

 兵庫県南部地震以降、橋梁の耐震補強が鋭意実施されているが、既設長大橋の耐震補強設計においては、これまでのように弾性設計の範囲内に一律に抑える仕様設計では対応困難なものも多く、その技術的難易度・投資額の側面から、一般高架橋の耐震補強に比べて、遅れをとっているのが現状である。
 このような状況の中、神戸港港湾幹線道路ハーバーハイウェイの6つの長大橋の耐震補強事業計画を立案するにあたり、構造性・施工性・経済性・維持管理において合理的な耐震対策を行うため、各長大橋の機能と役割に基づき、個別に耐震性能グレード(要求性能)を設定した耐震補強設計を実施した。
 この設計方法は従来の仕様設計の枠を超えた新たな性能設計の考え方であり、各長大橋の構造条件や地盤条件、また、兵庫県南部地震の損傷状況や復旧実績を考慮し、局所的な損傷許容箇所と守るべき補強箇所のポイントを絞り、きめ細かくメリハリをつけた合理的で新しい耐震補強設計として具体化したものである。
 本業績は、長大橋の耐震補強事業計画において、橋梁の目的別に重要度を分けた性能設計を新たに採用したこと、長期間の交通規制を伴わない施工期間の短縮(工期:約1年)や経済性等の観点から地域への貢献度が高いことなどが評価された。


【対象業績】
阪神高速神戸山手線(南伸部)の建設 -密集市街地を貫く開削トンネル-
密集市街地に位置する神戸山手線(南伸部)

密集市街地に位置する神戸山手線(南伸部)

【受賞者】
阪神高速道路株式会社神戸建設部
【受賞内容】

 阪神高速神戸山手線は、平成15年に7号北神戸線(白川JCT)から神戸長田出入路までの7.3kmが開通し供用されていたが、平成22年12月に3号神戸線と接続する3号神戸線(湊川JCT)までの『南伸部』1.8kmが開通し、延長9.5kmの自動車専用道路として完成した。
 当該路線の整備により、神戸市西部地域における自動車専用道路ネットワークが強化され、交通の分散、円滑化が進むとともに、地震等の災害にも強い代替性、補完性を有する幹線道路ネットワークの充実が図られる。加えて、一般道路の慢性的な渋滞が緩和されることにより、周辺環境への環境負荷低減にも寄与する。
 今回の工事区間は、新湊川の右岸沿いに位置し、密集市街地を通過することを考慮して全線地下構造となっている。また、この区間は、神戸市街を南北に通過するため、複数の営業中鉄道、幹線道路、ライフライン等の重要構造物と交差、近接するなど非常に厳しい施工条件であった。そこで、新たに開発された「自動変位制御システム」を用いた地下構造物の仮受け(国内最大級の規模)技術を始めとし、高度な解析・設計・施工技術を駆使して、狭隘な地下空間での難工事を完成させた。
 また、3号神戸線と接続する湊川JCT部では、既存技術(構造物の診断技術、鋼・コンクリート複合構造、耐震補強等)を最大限活用し、既設の湊川出入路の構造物を可能な限り有効利用することにより、コスト縮減、工期短縮および廃棄物削減を図った。
 本業績は、密集市街地おける近接構造物が輻輳した厳しい施工環境を克服し、工事を完成させたこと、完成後の渋滞緩和、利便性の向上など地域への貢献度が高いことなどが評価された。

技術賞特別賞

【対象業績】
既設管渠の直接切削による管渠同士の推進地中機械式側面接合について
推進機及び切削接合イメージ

推進機及び切削接合イメージ

【受賞者】
大阪府東部流域下水道事務所
中林建設株式会社
【受賞内容】

 寝屋川流域整備計画は、流域面積268km²の約4分の3を雨水が自然に河川へ流れ込まない「内水域」が占める寝屋川流域において、増大する雨水流出量に対処すべく河川と下水道が一体となって40年に1度の降雨に対応させようとする総合的な治水対策である。
 本業績は、この計画に基づき既存の下水管(合流式)の能力不足を補う第2の下水管として新たに「増補幹線」を計画し、大阪の大動脈である大阪中央環状線直下において、既に施工が完了している地下河川(内径Φ6,900mm)と増補幹線 (内径Φ3,000mm)を地中接合したものである。
 工事は、大口径・大深度の高水圧下(土かぶり21m)で作業等をする条件から、従来行われてきた地上からの薬液注入・地盤改良・凍結等の補助工法を行うには、交通規制による影響や施工に対する安全面などに大きな課題があった。
 そのため、地上からの補助工法を必要としない「機械式地中接合(MELIT工法)」を用いてこれら課題を克服した。これは、1つの掘進機で推進工事と既設管渠の切削接合の両方を行う工法で、コピーカットされたカッターアームを用い通常の掘進機同様に掘進を行い、既設管渠切削時には、内蔵された切削リングを油圧ジャッキにより伸長させ、その先端部に設けられた自生刃ビット(超硬チップ)により既設セグメントを直接切削するものである。
 本業績は、地上の施工空間確保が困難であるとともに大深度という厳しい施工条件において、新技術を導入し安全・確実に地中管渠接合を成し遂げたこと、今後、技術改良を行いつつ同種工事への活用が期待されることなどが評価された。


【対象業績】
JR嵯峨野線複線化工事の完成
JR嵯峨野線複線化工事(複線化区間を走行する列車)

JR嵯峨野線複線化工事(複線化区間を走行する列車)

【受賞者】
西日本旅客鉄道株式会社
京都府
京都市
【受賞内容】

 JR嵯峨野線は京都駅から京都市、亀岡市をとおり、南丹市の園部駅に至る全長34.2kmの路線である。本工事は嵯峨野線京都~園部間に存在する部分的な単線区間を複線化し、同区間を全線にわたって複線化するものである。施工範囲が広域にわたり、狭隘な住宅密集地や軟弱地盤、山間部などの様々な条件下で工事を実施した。
 構造物では、直接基礎と杭基礎の特性を合わせ持つシートパイル基礎や、セメント改良礫土とジオテキスタイルを組み合わせたスラブ版で支持する地盤改良技術の適用など新技術を導入するとともに、上・下線分割施工を前提とした2線2柱式高架橋や、非自立性地山でのグラウンドアンカー式土留工の本設利用など、鉄道では事例の少ない構造を採用し、コストダウンやメンテナンス性の向上等を図った。
 施工面では、交通量の多い主要道路上の桁架設や、鋼桁からボックスカルバートに一晩で置換えるなど、制約条件の多い工事に対して事前検討を積み重ね、無事故で完遂させた。 嵯峨野線は国鉄時代から順次輸送改善工事を実施してきており、本工事で複線化工事が全て完了したことにより、所要時間の大幅な短縮や列車の増発や等間隔での列車運行が可能となった。
 本業績は、困難な施工環境のもと、新技術を導入するとともに工夫を凝らして多種多様な工事を完成させたこと、複線化工事の完成により地域の利便性向上等が期待されることなどが評価された。


【対象業績】
西日本の活力を支える阪神港スーパー中枢港湾の整備と供用
供用開始後の阪神港(神戸港)PC-18高規格コンテナターミナル

供用開始後の阪神港(神戸港)PC-18高規格コンテナターミナル

【受賞者】
国土交通省近畿地方整備局神戸港湾事務所
国土交通省近畿地方整備局大阪港湾・空港整備事務所
【受賞内容】

 日本の港湾の相対的地位が低下する中、神戸港・大阪港は国際競争力を強化するため、平成16年7月にスーパー中枢港湾「阪神港」として指定を受け、大規模コンテナターミナルの効率的・一体的な運営と近隣港湾の相互連携を図るため、ハードとソフトの両面から取組を進めている。
 ハード面では、コンテナ船の大型化に対応すべく、神戸中央航路の浚渫工事を実施した。その際、船舶航行状況監視システムを導入し、全ての船舶動向を一元管理して航行の安全を確保した。また、土砂処分場の容量不足に対応するため、バージアンローダ船用施工管理システムを導入し、揚土配管に設置したγ密度計等により加水ポンプの注水量を管理・調整することによって、過剰な注水を減らし含水率の小さい状態を維持しながら浚渫土を処分場に揚土した。
 ソフト面では、大阪港(堺泉北港含む)、尼崎西宮芦屋港及び神戸港を1つの港とする一開港化の実現によって、この中の2港以上に連続して寄港する船舶に対する入港料等のコスト削減を行うとともに、コンテナターミナル24時間フルオープン化に向けた支援などにより、コンテナ船が入港してから荷主が貨物を引き取るまでにかかる時間(リードタイム)が短縮された。また、大阪港においては、個々に運営していた3つのコンテナバースを一体的にすることにより、効率的なターミナル運営が実現し、コスト、スピード、サービスのハイレベルな提供が可能となった。
 本業績は、ハードとソフトの両面において高い技術や創意工夫を用い事業を完成させたこと、事業の完成により物流の円滑化・効率化が図られ利用者や地域に大きく貢献していることなどが評価された。


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