平成17年度 土木学会関西支部技術賞
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技術賞
- 【対象業績】
- 「ASR橋脚の維持管理マニュアル」の策定
- 【受賞者】
- 阪神高速道路株式会社
- 【受賞内容】
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アルカリ骨材反応(Alkali-Silica Reaction= ASR)によるコンクリート構造物の劣化は、1980年代に日本各地で発見され、コンクリートクライシスとして大きな社会問題となった。阪神高速では、1982年に ASRによる橋脚の劣化を発見し、委員会などで検討を行った。その成果に基づいて維持管理指針やコンクリート表面保護工便覧を制定し、反応抑制対策などを行い、適切な維持管理を実施してきた。ところが1999年、橋脚梁部において鉄筋破断が発見されたため、緊急かつ新たな課題に対応すべく検討委員会を設置し、2005年、全国に先駆けて鉄筋破断に対応した「ASR橋脚の維持管理マニュアル」を制定した。 この維持管理マニュアルの特徴は、 1.鉄筋損傷の調査ポイントの明示 2.外観劣化度によるグレーディング管理の採用 3.性能照査、補修・補強の考え方の明示 4.追跡点検・モニタリング方法の明示 などが挙げられる。
今後、構造物の高齢化が進み維持管理の重要性が一層高まる中で、この維持管理マニュアルは、全国のASR劣化構造物の維持管理において活用が期待される。
本業績は、過去の技術的知見、デ-タおよび要素実験を基に作成され内容が充実していること、組織が一丸となり高い使命感を持ち先駆的、継続的に取組んだこと、実務者に分かりやすい形で纏められおり、今後のASR診断技術の先導的な役割を果たすと期待されることなどが評価された。
- 【対象業績】
- 切り替えて次世代につなぐ
-神戸新交通ポートアイランド線延伸事業-
- 【受賞者】
- 神戸市企画調整局
- 神戸新交通株式会社
- 【受賞内容】
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神戸新交通ポートアイランド線は三宮とポートアイランドを結ぶ、昭和56年2月に我が国で最初に営業を開始した新交通システムである。神戸市では、その後もポートアイランド第2期や神戸空港の建設などの都市基盤の整備を進めており、本事業は、それらの事業と連携し、新たな交通需要に対応するとともに、既存路線の利便性を高めるため実施された。
事業の計画、建設にあたっては、既存路線を活用することにより建設コストを大幅に削減し、既成市街地への環境・景観に配慮しつつ、神戸空港の建設やポートアイランド第2期の医療産業都市の形成などの周辺関連事業と連携しながら事業を進めた。また、無人自動運転の新交通システムの営業線としては史上初となる線路切り替え作業において、安全で確実な工事の実施、綿密な工程管理とリスク管理により予定時刻に無事営業を再開した。さらに、複合型新形式橋梁であるCFTガーダー橋の採用、空港連絡橋における道路橋との一体架設や大伸縮装置の考案など、様々な創意工夫を凝らして問題点を解決した。
本事業は、このように新しい実績と貴重なデータの蓄積により、都市土木技術の発展に大きく寄与するとともに、利便性の高い都心型空港の形成と海上都市の発展に大きく貢献していくと考えられる。
本業績は、鋼床板CFTガーダー橋の採用により景観性、経済性に優れた構造を確保したこと、無人自動運転の新交通システムの営業線においては史上初となる線路切り替えを綿密な施工計画の立案と安全な工事の実施により無事に行ったこと、様々な工夫を行うことで既存路線の活用を図り、効率的で経済的な事業を推進したことなどが評価された。
- 【対象業績】
- 近代土木遺産の再生
~日本最古の重力式コンクリートダム 布引五本松堰堤の堤体補強~
- 【受賞者】
- 神戸市水道局
- 【受賞内容】
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布引五本松堰堤は、明治33年に建設された日本で最古の重力式粗石コンクリートダムである。本事業は、建設100年という節目を機に、堤体を新たな耐震基準に適合させることを主目的として、本格的なリニューアル工事を行ったものである。維持管理時代の先駆として、先人が様々な工夫を施して建造された土木遺産を、「当時の技術や景観を生かしつつ、現代の技術を加え、次世代に継承する」といった観点で設計・施工に創意工夫を加えて実施した。
まず、建設当時の図面・書類から設計諸元や使用材料を明らかにし、経済性と要求性能の両立に配慮した。更なる100年も堰堤を供用するため、補強コンクリートを堤体上流面に増打ちを行い、堤体上流端に発生する引張力を解消し、耐震性能の向上を図ると共に、その優れた景観を継承するため、石張りによる表面処理を行った。また、管理橋の補強に際しては、建設当時の部材を出来るだけ残し、既設類似部材で補強するなど、現況と違和感のないよう配慮した。
ダム周辺は自然環境に恵まれ、冬場はオシドリの飛来地として知られている。野鳥が安心して生息できるよう、潜堤築堤や堆積土砂の撤去にあたり、水面の広がりが確保出来るよう配慮した。また、より良い水辺環境の創出として、野鳥観察所等を整備した。
本業績は、土木遺産の次世代への継承を「技術者としての思想」「市民との絆」の視点で捉え実現したこと、社会環境、周辺自然環境に配慮し近代土木遺産の現況を最大限保存した上で、堤体の耐震性の向上と貯水容量の回復を図ったこと、古い構造物の健全性を正確に診断した上で、新しい社会資本として再生した技術は、今後の同種事業への展開が期待できることなどが評価された。
- 【対象業績】
- 重交通交差部における老朽化橋梁の横梁移植プロジェクト
-名神高速道路 下植野高架橋-
- 【受賞者】
- 西日本高速道路株式会社関西支社
- 横河工事株式会社
- 株式会社日本構造橋梁研究所
- 株式会社フジエンジニアリング
- 【受賞内容】
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昭和38年に供用を開始した名神高速道路の下植野高架橋は国道171号線を斜めに跨いで架設されており、鋼床版構造の横梁で鋼単純合成鈑桁を支持した橋梁であった。本橋は約40年間、重交通による載荷に耐えてきたが、横梁の構造上の問題から局部座屈及び疲労亀裂が発生するなど、危険な状況が進行していた。そこで、損傷対策と共に、車両大型化対応と耐震性能を確保するためのリニューアル工事を実施した。
リニューアル工事では、構造上の問題を有する横梁とRC橋脚は撤去し、「移植」した新設横梁と再構築した鋼製橋脚を剛結した。また損傷の軽微な鈑桁は再利用し、横梁と剛結して連続立体ラーメン構造とした。これにより、耐力の増強、耐震性能の向上、及び沿道環境の改善を図った。
また、鈑桁を高速道路上空に設けた架設桁で吊る「ガーダー・ハンガー・エレクション工法」により横梁を移植し、名神高速道路及び国道171号線の重交通への影響を最小限にして工事を実施した。人間に例えると臓器移植手術に匹敵する本設計・施工法は、困難を伴う都市内高架橋のリニューアルの一方法であり、今後多方面で応用が期待される。
本業績は、道路交通や沿道環境などの厳しい制約下で困難を克服したこと、既存構造物を可能な限り活用したこと、社会資本の更新時代を迎えつつある中で、今後応用が期待できることなどが評価された。
- 【対象業績】
- 密集した市街地での4本併設、急曲線シールドトンネルの施工
-大阪市営地下鉄第8号線4工区シールド工事-
- 【受賞者】
- 大阪市交通局
- 大林・戸田・錢高・森本・奥村組土木特定建設工事共同企業体
- 【受賞内容】
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大阪市交通局により整備が進められている地下鉄第8号線は、大阪市東部に位置する井高野から今里までを結ぶ建設延長12.1km、駅数11の路線で、平成18年12月の開業によって市域東部における公共交通の利便性は飛躍的に向上すると期待されている。このうち、4工区は8号線全路線の中でほぼ中央に位置し、本線シールド2本と出入庫線シールド2本、さらには開削工事2箇所を擁する大規模工事である。
大阪内環状線直下では、これら4本のシールドトンネルが併設施工を行い、続いて大阪内環状線から国道163号線にかけて、本線シールド及び出入庫線シールドともに急曲線施工を行った。わが国の地下鉄工事において、4本併設と急曲線の連続施工はほとんど例がなく、施工にあたっては地盤変状の防止、先行トンネルを含む既設構造物への影響の抑制、併設区間と急曲線区間の連続掘進の円滑化を最重要課題とした。これらの課題に対して、併設部や急曲線部での適切な計測技術の採用と管理、施工条件下での裏込注入材の強度発現状況の把握、砂礫層における適正な泥水配合の把握等に努めた結果、課題を克服して竣工することができた。
今後、市街地では地下構造物の輻輳化、地上構造物の密集化がより進むと考えられており、本プロジェクトは、そのような条件下で行われるシールド施工に大いに参考になると期待される。
本業績は、市街地の軟弱地盤という厳しい環境の下、数々の工夫により周辺環境への影響を最小限に抑えながら、急曲線シールドを4本併設施工したこと、地下空間における有効活用の先例として活用が期待できることなどが評価された。
技術賞奨励賞
- 【対象業績】
- IT時代の大動脈"通信とう道"を守る
~既設シールドトンネルの新しい補強技術と変状監視技術~
- 【受賞者】
- エヌ・ティ・ティ・インフラネット株式会社関西支店
- 大阪市交通局
- 財団法人地域 地盤 環境 研究所
- 日本コムシス株式会社関西支店
- JFEエンジニアリング株式会社
- アイレック技建株式会社西日本営業本部
- 【受賞内容】
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大阪東部を南北に縦断するとう道ルートの近傍に大阪市営地下鉄第8号線工事が計画され、その内、約2.5kmが近接施工区間となった。一部区間に、とう道との離隔が約1mの超近接施工箇所があり補強が必要となった。そこで、とう道に収容している通信ケーブルを撤去することなく補強が可能で、トンネル軸方向の変形追従機能を有する新しい補強工法を開発し採用した。
また、約2.5kmにおよぶ近接監視区間と約5年間の長期計測を実施するにあたり、光ファイバをセンサとした監視システムを構築し、とう道の変状監視を実施した。光ファイバセンサの特性を活用した計測システムにより、従来の計測手法ではカバーできなかった連続的な長距離間のデータが取得され、かつ長期的なとう道構造物の監視が可能となった。
今回のとう道補強及びとう道変状監視システムは、地下鉄工事の円滑な工事進捗と施工の安全に寄与したものと考えられる。また、これらの技術は、今後、近接施工に限らず、トンネルの維持管理に有効活用されるものと期待される。
本業績は、情報化施工及び対策工法の一つとして効果的な技術を開発したこと、今後の地下空間における近接工事の先例として活用が期待されることなどが評価された。
- 【対象業績】
- 「震災10年いま新生のまち六甲道駅南地区」
~住民との協働による防災拠点整備~
- 【受賞者】
- 神戸市
- 【受賞内容】
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神戸市は、阪神淡路大震災により壊滅的な被害を受けたJR六甲駅南側地区において、副都心として、また防災拠点としての復興を早期に図るため、六甲駅南地区震災復興第二種市街地再開発事業を計画した。 震災から2ヶ月後に行われた施行区域と主な都市基盤のみの「第1段階の都市計画決定」は、避難者への周知などが課題であった。しかし、復興方針を早期に明らかにすることにより、被災者のより早い生活再建に貢献できた。
第2段階では、住民参加手法として「まちづくり協議会・まちづくり提案」方式を採用した。地区中央の防災公園(六甲道南公園)整備計画について、地元協議会のまちづくり提案を受け入れ、住民の意見を反映するため、ワークショップにより計画内容と管理方法について協議を重ね決定した。また、公園南側の広場部分では、国際記念コンペにより選ばれた案を基に整備した。平成17年9月、主要公共施設の整備が完了し、住民との協働により地域をあげてのまちびらき行事が行われた。
この10年の「協働のまちづくり」による防災拠点整備の取り組みは、今後、不幸にして、何らかの災害が都市に発生した場合、復興計画への参考になるものと期待される。
本業績は、震災後の新しいまちづくりとして、多くの困難を克服しながら、合意形成を意識した都市計画手法により、早期の復興を成し得たこと、行政と住民が一体となり地域協働のまちづくりを行ったことなどが評価された。